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2015年9月 8日 (火)

日本は「粉飾国家」である。「官から民主導にならないとこの国は変わらない」とよく言われる。だが、それは真っ赤な嘘だ。銀行の不良債権問題や相次ぐ企業の情報隠しがよく示すように、粉飾体質は官も民も変わらない。粉飾国家の体質は官にも民にも共通する、この社会の基層に染みついたものなのである。本書で明らかにしてゆくように、「民営化」や規制緩和でさえ、粉飾国家の手法の一つに過ぎない。そもそも、官から民かという問題設定自体が間違っているのである。

引用


粉飾国家 (講談社現代新書) 新書  – 2004/7/21金子 勝   (著)

国のシステムは、なぜ機能不全に陥ってしまったのか。年金や財政の真の問題点からゴマカシの仕組みを解剖する。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

 金子/勝・1952年東京生まれ。東京大学経済学部卒業。同大学大学院経済学研究科博士課程修了。法政大学教授などを経て、現在、慶応義塾大学経済学部教授。専攻は制度経済学、財政学、地方財政論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

新書: 196ページ出版社: 講談社 (2004/7/21)発売日: 2004/7/21

3頁・はじめに・

日本は「粉飾国家」である。「官から民主導にならないとこの国は変わらない」とよく言われる。だが、それは真っ赤な嘘だ。銀行の不良債権問題や相次ぐ企業の情報隠しがよく示すように、粉飾体質は官も民も変わらない。粉飾国家の体質は官にも民にも共通する、この社会の基層に染みついたものなのである。本書で明らかにしてゆくように、「民営化」や規制緩和でさえ、粉飾国家の手法の一つに過ぎない。そもそも、官から民かという問題設定自体が間違っているのである。

筆者が「逆システム学・・市場と生命の仕組みを解き明かす」(児玉龍彦氏との共著、岩波新書、2004年)でも述べたように、市場経済はさまざまな制度の束からできており、フィードバックの重なりによってそれが調整制御され、維持されている。ここでいうフィードバックとは、情報がセンサーとなる人々や機関に正しく伝えられ、それに基づいてシステムが制御される関係を指す。

国の財政なら、正しい財政状態が会計上に明確に開示されて、議会あるいは選挙民に正しく伝えられ、人々がその情報に基づいて直接間接に制度や政策を選択できる状況を「フィードバックが利いている」という。

4頁・逆に財政赤字や不良債権が隠され、複雑な会計処理によって実態が選挙民に正しく伝えられないと、議会も民主主義も機能しなくなる。一部の権力者たち(政治家や官僚たち)が情報を独占して操作してゆくと、フィードバックがなくなり、やがて財政赤字(債務)が取り返しのつかない規模に達して、制度も政策も機能不全に陥ってしまう。

金融機関や企業の場合も同じだ。もし銀行経営者が不良債権の正しい額を伝えず、レフェリーとしての金融監督当局や監査法人がそれを追認してしまうと、不良債権のゴマカシに歯止めが利かなくなり、やがて金融システム自体がマヒしてしまう。このように、社会全体で多重フィードバックの仕組みが買われてしまった状態を、「粉飾国家」と呼ぶことにしょう。

筆者があえて「粉飾国家」という言葉を使ったのは、日本社会の何を変えなければならないのか、その対象をはっきりさせるためである。しかも、粉飾国家は持続可能性がないことが、誰の目にも明らかになりつつある。たとえば、年金問題はその象徴だろう。

事実、2,004年の年金制度「改正」は、議論のプロセスからして無残なものであった。まず、せっかく改革の対案をだしながら、民主党は菅直人代表(当時)の年金未納問題が暴露されたことを背景にして、

5頁・2,004年5月6日、年金制度改革をめぐって何の実効性も保障されない与野党「合意」を行ってしまった。多くの人々は、それを政党間の「手打ち式と受け止めた。そして十分な議論がなされないまま、2004年度の年金制度「改正」案は衆議院を通過してしまった。

その後、民主党は岡田克也氏に交替してから攻勢に転じたが、時すでに遅し。2004年6月3日、参議院構成労度委員会において野党側委員三名の質問を残して、政府の年金制度「改正」案が強行採決された。そして6月5日未明、野党側は参議院議長に不信任案提出とともに副議長が散会を宣言したが、与党側は議長が無効を宣言して採決に入り、2004年の年金制度「改正」案は国会を通過した。

こういう異常事態の中で年金改革案は成立したが、それによって議会制民主主義も大きく傷ついてしまった。それだけではない。この年金制度「改正」によって、多くの「国民」は、早晩年金財政も破綻してゆくのだろう。日本社会が、基層から崩壊しつつあると感じるのは筆者だけであろうか。

メディアはこの間、グリービア問題に始まり、社会保険庁の保険料流用問題、小泉純一郎首相や八閣僚を筆頭とする国会議員の国民年金未納・未加入問題など、ひたすらネガティブ・キャンペーンやバッシングに明け暮れた。

6頁・平成27年9月8日・


ネガティブ・キャンペーンやバッシングは冷静な議論と解決策を見失わせるだけで、何も生み出さない。そして何が問題なのか、共通認識が形成されないうちに、メディアはこれで年金問題が終わったとして、また別の話題に関心を移していく。

だが、実は問題は始まったばかりだ。年金制度の欠陥が根本的に修正されないままなのだから、いずれ年金財政は破綻してゆくだろう。実際、年金「改革」法案が国会を通過した後になって、出生率が1・29%にまで低下したことが公表された。このまま人口が低位推計通りに動けば、21世紀中に日本の人口は半分になってしまう。

ただひたすら保険料引き上げと給付額切り下げを繰り返したところで、年金制度が持つわけがない。

すでに703兆円に達した国の財政赤字(借金残高)も、このままではもたない。金利の上昇があれば、やがて日本の財政は破たんに追い込まれるに違いない。中国のバブル経済や米・英・豪の住宅バブルが崩壊する危険性も迫ってきている。これまで日本は、四年周期の景気循環の波に一喜一憂しては失敗を繰り返した。「失われた10年」が、なぜこのように深刻な事態になったのか、きちんとした反省と総括がない限り、もう日本社会の未来はないところ来ているところに来ていると言ってよいだろう。

それなのに、多くの人々は「まだ何とかなるのではないか」と思っている。そうした状況が続いてきたのは、粉飾国家の仕組みが表面的に現状をもたせてきたからである。

7頁・平成27年9月10日 木曜日・

とはいえ、問題が本質的に解決したとは思えないまま、多くの人々は、だんだん事態が悪化しているのではないかという漠然とした不安を抱えている。

実際、2004年の年金制度「改正」の前提を覆すような事実や情報が、次々と「後出しジャンケン」のように出されている。なのに、議員年金の特権を享受する国会議員たちは、「国民」の不安を解消するような議論をしない。議会制民主主義というフィードバックが完全に利かなくなっているのだ。

閉塞を生み出している本当の原因がわからないから、余計に不安が募る。だとすれば、何よりも問題の原因を掘り下げる作業が最優先されなければならない。そうしなければ、本当の解決策も見えてこないからだ。

こうした状況を踏まえて、本書では筆者なりの原因の把握と解決策を提示したつもりである。それは、複雑に入り組んだ粉飾国家のシステムを一つひとつ解剖しながら、日本社会の基層にある閉塞の原因をえぐり出す作業を伴った。だが、まだ分析途上で不十分な点が多いことを率直に認めなければならない。読者からのご指摘やご批判をいただければ幸いである。

平成27年9月10日


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てすと、鹿児島県大島郡龍郷町大勝3113-1滝田 好治0997-69-3195

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