福島第1原子力発電所の事故から3年が経過したが、廃炉までの道のりは果てしなく遠い。今後、日本の原発規制はどうあるべきなのか、米国の権威に聴いた。
引用
【第280回】 2014年3月27日 著者・コラム紹介バックナンバー
週刊ダイヤモンド編集部
米原子力規制委員会前委員長 グレゴリー・ヤツコ 日本政府は原発の代替案を考えるべき
福島第1原子力発電所の事故から3年が経過したが、廃炉までの道のりは果てしなく遠い。今後、日本の原発規制はどうあるべきなのか、米国の権威に聴いた。
――事故から3年、福島第1原発の今をどうみていますか。
廃炉と除染のプロセスは何十年もかかります。そして、これから長期間にわたり準備をしなければなりません。現在は事故への対応を続けている状態で、(対策が)終わったとは言えません。
放射性物質の管理や、汚染水の地下水への浸透が起きていますが、これを解決する必要がありますし、原子炉の炉心を冷却するために水を入れる作業もあります。
――福島第1原発の廃炉の体制をどう評価していますか。
この数年間、汚染水の処理、管理、除染の問題は焦点がぼやけていたのだと思います。だから、最近になって(汚染水の流出など)驚きを禁じ得ない報告が出ています。しかも、汚染水の漏えいについては、東京電力の報告(のミス)も問題になりました。
われわれは簡単な解決策のない、難しい問題に直面しています。現在は汚染水漏れに対して、(汚染水を増やす原因となっている地下水の流入を防ぐ)凍土壁の設置など、新しい技術で対応していく予定ですが、確実性はありません。水を止めるのは難しく、対応は困難です。
――低濃度の汚染水を海洋に放出するのが妥当という見解もあります。
放出をどう考えるかは汚染レベル次第だと考えています。(放出可能とされる)トリチウムも、ほとんど検出できないレベルなら、海洋に放出する方法もあると思います。
ですが、最も重要なのは、地域社会とのコミュニケーションです。
そもそも汚染水問題は、地元の人や漁師の責任ではなく、全面的に東電にあります。汚染水を希釈して海洋に放出するにしても、地域社会の人たちと協議する必要があります。
――東電、日本政府のコミュニケーションは改善していますか。
確かに透明性を高める努力はなされてきたと思います。しかし残念ながら、タンクの周辺などで高レベル汚染水が漏れたことについて、十分な報告が行われませんでした。情報開示は改善の余地があります。
――なぜ透明性の問題が改善しないのでしょうか。
原子力産業特有の問題だと思います。情報を積極的提供する姿勢がないのはアメリカも同じです。原発を運転することで、必ず環境への放射性物質の排出はあります。
今は世の中にインターネットが十分に普及しています。特定の原発の放射線レベルをウェブ上で確認できるようにしてもよいでしょう。私はこれを米国で(原発稼働の)要件にしようとしましたが、原子力産業に反対されました。
――汚染水への対応は、どこに問題があったと思いますか。
東電の取り組みは報告書などを読ませていただきましたが、遮水壁を作って、汚染水の流出を防ぐ構想があったにもかかわらず、コストが高すぎるということで、実施されませんでした。
ただ、当時を振り返ると、原子力安全・保安院がなくなる時期で、(汚染水処理の問題の)焦点がぼやけることがあったのも事実です。その後、政権交代で新総理が就任したこともあり、徐々に焦点がぼやけてきたのではないでしょうか。
決定的な理由をあげることはできません。
――現在、原子力規制委員会は、原発が新しい規制基準に適合しているか、審査を進めています。どう評価していますか。
本来、規制委は安全性を重要しているイメージを与えなければなりません。しかし、日本政府が新たなエネルギー基本計画で再稼働の議論をしているため、(独立機関である)規制委も安全性以外のことを考えているという誤ったイメージを与えています。
この状況を変えるには、政府が一歩下がり、強く再稼働を求めることを控えるべきだと思います。
規制委としてもやるべきこときちんと行い、再稼働の審査を行い場合によっては基準を変えることを検討していくべきです。それが、規制委が取るべきアプローチです。
――規制委の独立性は担保されていないように見えますか。
私個人としては、規制委は適切な発言をし、独立の行動を示す努力をしていると思っているが、いかんせん現在、置かれている状況が非常に厳しいですね。田中(俊一)委員長も政府に対していらだちを感じているのではないでしょうか。
世界で2番目に大きな原発事故起きて3年で、まだ平時とは言えません。その中で、規制委が独立した機関であることをあらためて強調していくべきです。
そのためには政府が一歩下がることが必要です。それは、すなわち強く再稼働を求める発言をすべきでないということです。
―― 一歩下がるというのは、暫定的に再稼働の判断をしないという意味か、将来も原発を動かすべきではないという意味でしょうか。
両方の意味です。政府がエネルギー基本計画で、原子力をベースロード電源と位置付けると、(安定的に稼働する電源として)他の解釈の余地がなく、再稼働と感じてしまいます。
エネルギー基本計画では、まず(原発の)代替案を示すべきでしょう。その選択肢が与えられて初めて、規制委は、安全性を重視した判断ができるでしょう。
――日本が取るべきエネルギー政策は、どのようなものでしょうか。
(再生可能エネルギーなど)新エネルギーがすぐに原発を代替できるとは思いません。ですが、原発なしでも成立する新たなエネルギーシステムを考えることは今でもできます。
これは大変困難なことではありますが、今この状況で椅子に座ったまま「原発は素晴らしい!」と言うことはできないでしょう。むしろ、原発をベースロード電源とする政府をおかしいと思う意見はその通りでしょう。福島の事故は最低でも10兆円規模の費用がかかるような巨大事故だったのですから。
短期的には少しの原子力は必要かもしれませんが、長期的には原発なしのエネルギーシステムはできるはずです。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 大矢博之、森川 潤)
8:10 2014/03/30
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