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2014年11月 7日 (金)

124頁・127頁「来年度予算は今年以上に厳しくなると思います。今日から全員で予算編成を始めましょう。平成15年度はこれから予算執行するわけですから、今から来年度に備えます。ですから、予算を取ったといってもその執行に関しては、本当にこの予算が現在の世の中に会うのかどうかちゃんと議論することが大事です。

引用


柳村流に予算を絞る「がっくら漬け大方針」・121頁・

平成26年11月7日 金曜日・

2004年(平成16年)。全国の自治体を「交付税ショック」が襲った。国は地方に配分する地方交付税を対前年度比マイナス12%、金額にして2兆8,000億円の大幅自治体への配分額が判明したのは2,004年度の予算編成の終盤時期であり、自治体に大きな影響を与えることになった。

222頁・

柳村が予想していた事態がついに発生したのである。

交付税の削減をすでに予期していた柳村ですら「予想以上の減額だった」述懐する。村では、減額幅の問題はあるにしても、交付税の削減や財政の先細りにどのように対応していくかについて、これまで何度となく議論を重ねてきた。前提にあるのは、従来の予算消化主義ではなく、経営という観点から財政全体を見直すことである。


いかに予算を獲得するかに奔走し、獲得した以上はそれを一年間で使い切るために一生懸命知恵を絞る。収入が減る中でそんなことを続けていたら、タコが自分の足を食べるように自らを窮地に追い込んでしまう。

この問題に対する柳村の答えは明快である。

柳村が訴え続けてきたのは、「予算が余れば、その分を借金返済に当てる。事業を削ってもそうしなければ倒産するしかない」というものだった。


「自治体というのは、「経営」という考え方を入れなかったら本当にすぐにでも倒産します。滝沢村は小さい村ですが、それでも何かあれば5億、10億なんていいう金額はいっぺんに飛んでしまいます。ましてや県庁レベルになれば、100億200億はあっという間です。ずっとこうして言い続けてきていますから、事業費として予算を取ったとしても、無駄な事はやめてもいい。

123頁・

不要額がたくさん出ても結構、私が議会に説明するから心配するな、と。そうしてでも貯めておいたほうがいいのです。うちの会社ではトータルで年に二億円ぐらい余るようになりましたが、村の二億というのは大きい金額です。


実際は予想外に出て行くところもたくさんありますから、いくら詰めても厳しいのですが、やはりトータルで余るようになったことは、すごくいいことだったと思います」

民間企業であれば至極まっとうな考え方である。だが、この方針に真っ向から抵抗したのは議会だった。柳村は議会に積極的に登壇し、職員に変わって激論を戦わせた。


既に職員の間には、一連の意識改革や組織再編によって「経営感覚」が培われつつあった。職員の理解と議会の説得を通じて、少しずつではあるが財政改革も進みつつあった。

交付税ショックの一年前の2003年。柳村は抜本的な財政構造改革を断行することになる。2003年4月1日の年度始めの訓示で全職員を前に、柳村は村の過去・現在の財政状況と、未来の予測について丁寧に説明した。

全庁上げて積極的に積極的に行政システムと財政の改革に取り組んできたとはいえ、財源を国に大きく依存している村の歳入構造は、これまでの見通しをはるかに上回るスピードで悪化していることを詳しく解いた。


そして、2004年度予算編成の方向性についてこう宣言した。


124頁・「来年度予算は今年以上に厳しくなると思います。今日から全員で予算編成を始めましょう。平成15年度はこれから予算執行するわけですから、今から来年度に備えます。ですから、予算を取ったといってもその執行に関しては、本当にこの予算が現在の世の中に会うのかどうかちゃんと議論することが大事です。

議論の素材としては、住民アンケートを踏まえ、重要度や不満度などを分析して、本当に必要なのかどうかをじっくり考えて判断してください。予算が余ることを恐れてはいけない。余るようなら余ってもいいのです」


職員一人ひとりを諭すように語る柳村の口調は如実「にょ‐じつ【如実】 1 現実のままであること。」に危機感が表れていた。そして、この危機感を全職員と共有することなくしては、この難局を乗り切りことはできないという悲壮な覚悟も秘められていた。

それは、これまでやろうとしてもできなかった大胆な予算編成の仕組みの導入と、予算のスリム化の徹底だった。


そして2004年度から始まる歳出改革を「がっくら漬け大方針」と呼んだ。


がっくら漬けとは地元特産の漬物の名前である。その由来は漬物にする大根をナタで不揃いに「がっくらがっくら」切ったところにある。今は包丁を使うが、昔はナタで切っていたことから、「大鉈を振るって、思い切って事業を切る」(柳村)という意味で「がっくら漬け大方針」と命名した。

125頁・

2003年10月7日。柳村は部長をはじめとする管理職全員に「平成16年度予算編成方針について」と題する通知を出した。その中で柳村は村の財政状況に対する危機感を吐露し、村が取るべき行動について次のように述べている。


・・本村においては、これまで間断なく、全庁を上げて行政システムと財政の改革に積極果断に取り組んできたところである。しかし、財源を国に大きく依存している歳入構造は、これまでの見通しをはるかに上回る悪化の度を深め、歳出面にあっては、義務的経費を中心に経常経費が増嵩「ぞう‐すう【増嵩】 分量・金額などがふえること。」。

近年の大規模な普通建設事業実施に伴い、平成14年度末の村の債務残高は約179億円に達し、平成18年度には公債費のピークを迎える見通しとなっている。このため、平成14年度決算においては、実質単年度収支については3億2,000万円のかってない大幅な赤字となり、さラに平成15年度予算編成においては、五億円を超える財政調整基金の補填を余儀なくされており、今後における多額の基金繰りいれは、困難な状況と言わざるを得ない」

「義務的経費」とは人件費、交際費などを意味し、「財政調整基金」とは、年度間の財源の不均衡を調整するための基金のこと。長期的視野にたった計画的な財政運営を行うために、財源の余裕のある年度に積立を行い、財源不足が生じる年度に活用するためのものだ。その基金までもが危うくなりつつあり、立沢村の財政構造が極めて硬直化している実態を示している。

そして柳村は採るべき方向性についてこう述べる。


126頁・

「したがって、平成16年度の予算編成に当たっては、国・県の予算編成屋地方税制改革の動向と今後の経済環境を見極め、「入るを量って出るを制す」の財政運営の原点に返りつつ、過去の経緯にとらわれることなく、効率化、選択と集中等の徹底により山積する諸課題を柔軟に対処しなければならない」

その具体的な方策の最大の目玉は、「枠配分方式」という予算決定の仕組みを導入したことである。


従来の予算編成には各部、各課が要求してきた予算に対して、予算の権限を持つ財政課が一つ一つをチェックして予算付をしていく方式であるが、それではどうしても予算が膨れ上がってしまう。


枠配分方式とは、過去五年間の各部、各課の平均値を算出し、それをベースにした基準額をあらかじめ設定。それを各部に配分し、各部はその枠内の金額で収まるように事業を調整する。さらに枠を超えてどうしても必要な事業については、優先順位をつけて枠外事業として要求できるが、すべて、「経営会議」で査定して決定するというものだ。

滝沢村の「平成16年度当初予算編成要項」では「枠配分」をこう説明している。「経営企画部長は第二期に編成すべき、政策的ソフト事業にかかる経費および投資的経費について、各部等に配分すべき一般財源を調整し、村長の決裁を得て各部等の長へ通知するものとする。


127頁・

各部等の長は平成16年度予算編成方針に基づき、配分された一般財源枠内で調整した内容を財務会計システムに入力し、予算を編成することとする。また、枠を超えてなお予算を要求する必要がある場合には、財務会計システムに入力した上で、別に示す様式に従い、優先順位を付した帳票を調整し、経営企画部長あてに提出するものとする」


ここに言う「様式」とは、予算編成事業一覧を期した一枚の紙である。「配分された一般財源枠内編成事業」と「配分された一般会計枠を超えて要求する事業」の二つに区分され、それぞれ事業名と金額を書き記すだけの単純なものである。

従来のように欲しい予算を積み上げるのではなく、あらかじめ決定した金額の枠内で予算を決定し、それでも収まらない事業は要求できるが、厳しい査定を受けるというものだ。


徹底した予算の削減を実行するという柳村の意思がにじみ出ている。


127・14/11/7 10時23分・

 

 

 

 

 

住民自ら「予算編成」にタッチする試み・127頁・14/11/7 10時45分・

その時の決意を、柳村はこう語る。

「基本的には、まず、第一期の予算である経営経費分を詰められるところはどんどん詰める。それで、各部、各課が詰めてきました。その後、歳入を計算し、それを過去五年間の各部、各課の特殊要因を除いたデータをもとにし、各部に配分しました。枠配をされたら、その枠に収められねばならない。

128頁・


今までやってきた事務事業を全部チェックし、優先順位をつけさせました。それを各部が全部責任を持ってやります。例えばある部に一億円の予算を配分すると、優先順位をつけてこの事業には1,000万円というように一枚の紙に書いて提出します。どうしても収まりきらないものについては、枠外の文として優先順位をつけて要求し、経営会議の場でなぜ必要かを説明しなければいけません。この方式自体について内部で揉めるということではありませんでした」ただし、中には予算をできるだけ多く獲得したいという思いから知恵を働かせる者もいた。

具体的には、本来枠内に入れるべき重要予算を意図的に枠外に入れて、認めてもらおうというやり方である。


これには柳村も激怒した。一時査定の段階で「これが枠外ということはありえないだろう。全部切りなさい」と突っぱね、差し戻して全部見直すように命じたこともあった。

「枠外に本来やるべきものを積んで来きたのは、安易になんとかなるだろうという思いがあったのです。前年も、苦しい苦しいと言いながらなんとか借金をし、財調(財政調整基金)を取り崩して予算編成ができたから、今年も出来るんじゃないかと。最後は考えを変えて全部直してきましたが、これほどきついとは思わなかったのではないでしょうか」

柳村も加わる「経営会議」では、全部長が各部の予算を念入りにチェックし、時には喧々囂々の議論も行われた。「けんけん‐がくがく【喧喧諤諤】 [ト・タル][文][形動タリ]《「けんけんごうごう(喧喧囂囂)」と「かんかんがくがく(侃侃諤諤)」とが混同されてできた語》大勢の人がくちぐちに意見を言って騒がしいさま。「―たる株主総会の会場」


129頁・

ある部の優先順位を巡って議論を戦わされたこともあった。「何でこの予算が枠外なんだ!これはおかしいだろう」

「どういう根拠でその予算よりこっちの予算が上になるんだ。これで議会や住民にちゃんと説明できるのか!」

「経営会議」メンバーの部長の一人一人が、自分の部署の利益だけを追求するのではなく、村全体の経営という観点から予算を編成する。

枠配分方式で優先順位を決めて、最終的に経営会議による議論で予算を決めるという方式は、翌平成17年度の予算編成でも実施された。通常、事業の見直しについては、その前に専門チームによる客観的な「行政評価」や「政策評価」を実施するという手順を踏むが、柳村はトップダウン型による実行にこだわった。


その理由について彼はこう説明する。

「行政評価とか政策評価をすることが大事だと言われますが、私はそれではダメだと否定してきたんです。なぜかといえば、評価にあたってはどこかの部署が6~7人のメンバーでプロジェクトを作ってやることになりますが、その結果を踏まえて、いざ組織展開しようとなると全部潰されます。「今まで前の方式でやってきたじゃないか。何様のつもりだ」という具合に組織に潰される。

130頁・

日本ではどこも、それで成功したところはありません。

私は、そのやり方では絶対に無理だと思っていましたから、意識改革から入り、その上で優先順位をつけさせるという独自のパラダイムでやりました。間違っているかもしれませんが、自分たち自身で議論し、優先順位をつけることで、私たちなりの行政評価、政策評価ができ始めたのです」


もちろん、行政評価や政策評価には、最大の顧客であり、利益の享受者である住民の視点を意識することが不可欠である。削減のためだけの予算編成であってはいけない。

柳村は2005年度の予算編成においては、優先順位の設定の議論に住民の意見を反映させることにした。2004年に住民団体が集まった席上で、柳村はこう宣言した。

「来年は住民を入れて予算編成をやります。住民の皆さんが本当に予算編成がしやすい、参加できる簡単な仕組みができましたから、来年からご参加いただきます。今から心の準備をしておいてください」


住民自らの予算編成にタッチするというのは、画期的な試みである。


2005年度に予算編成では、福祉分野に限定し、村の民生委員によって優先順位の議論が行われた。民生委員を対象にしたのは福祉の現場をよく知っていると考えたからである。

ところが、結果的には失敗に終わった。

131頁・

「何回か集まって福祉予算の優先順位づけをしてもらったのですが、最後には我々にはできないと万歳したのです。要するに何かを削らないといけないわけで、それは我々にはできないということです」

その理由を柳村はこう語る。

あれもやりたい、これもやりたいというのであれば簡単だが、何かを削るというのは誰しも辛い仕事である。ましてや削ったことで責任を取らされるはめにもなりかねない。

これは議会も同様だった。柳村は「議会にも何かの予算について優先順位をつけてみてくださいと言ったのですが、議会は最初からそんなのは嫌だという。あえて成果があったとすれば、行政マンがいかに大変かということを認識させたことです」と指摘する。

この住民参加型の運営は、平成17年度から実施する総合計画の策定につながっていくことになる。

131・午後1時45分17秒・

 


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